2011年1月1日土曜日

BRICsの台頭と日本の現状をIT視点から

就職氷河期と呼ばれて久しいですが、一方でITの現場では技術者不足が叫ばれています。取引先やエージェントの話しを聞いても「Javaの技術者が余ってる」とか言ってくるわけですよ。「一方で技術者不足」で「一方で技術者が余ってる」・・・これは一体、ということを今回考えていきます。

 

能力不足

よく言われているのは、それは「レベルの高い技術者が不足」していて、「レベルの低い技術者が余っている」ということであり、両者は矛盾していないという話です。

GPLなどのライセンスの話をしたときに、「文系上がりのIT技術者って結構多くてコンピュータリテラシーが不足している傾向がある」ことを述べました。企業研修やOJTがしっかりしている場合は問題ありませんが、そうで無い場合、いわゆる自主努力だけで、「技術力の底上げ」がどれだけ期待できるのか疑問があります。

冒頭で話した「余ってるJava技術者」というのは、経験年数1~2年の新人さんの話ではないんですよ。それなりのキャリアがある中堅プログラマなんです。SE・PGの経験ありの中堅。この人達が余ってしまう。

 

この中の何割かは単純な実力不足であることが考えられます。

「経験年数=実力」の等式はITの世界では必ずしも成り立たないことは多くの技術者が身を持って体験していることでしょう。半年程度の実務でもメキメキと実力を伸ばす新人がいる一方で、3年4年の経験を積んだはずの人が力不足で使えない・・・なんてことがあります。

力不足の技術者が仕事に就こうとする場合、経歴書ではそれなりのキャリアが示されていても、実際に面接したり簡単なテストをしたりすると本当の実力はわりと簡単にバレてしまうものです。仮に運良くバレずに会社にもぐりこめたとしても、プロジェクトの一員に組み込まれた瞬間、「あいつは使えない」ということになり結局退社となってしまうでしょう。

 

IT組織:9割の企業で要員が不足(ITpro)

IT部門にIT要員の数や能力の充足度を尋ねたところ、なんと61%もの企業が「要員数も能力も不足している」と回答した。続く「能力は足りているが要員数が不足」(13%)と「要員数は足りているが能力が不足」(17%)を合わせると、実に回答企業の91%がIT要員の不足を訴えていることになる。

多くのIT企業が技術者不足を訴えています。引用文をパッと見る限りでは、まるで売り手市場ですが現実は全く真逆の買い手市場です。ポイントは「要員数」と「能力」の2つでしょうかね。「能力は足りているが要員数が不足」が13%ありますが、この意味を勘違いしてはいけません。能力は足りているのであとは猫の手でも借りたい・・・ではないのです。不足している要員数分も能力の高い人を雇用したいと企業側は考えています。

 

要員不足は上流工程

上流」か「下流」であるかも関係しています。

能力不足は上流工程やマネジメント分野で顕著だ。図にはないが、IT要員の能力について充足度合いを尋ねたところ、「大変不足している」「不足している」の合計で最も多かったのが「戦略/企画能力」と「プロジェクトマネジメント能力」の2つでそれぞれ合計71%だ。続いて「ITアーキテクト能力」で合計67%だった。

基本的に不足しているのは「上流工程」側です。

 

ここでタイトルにあるBRICs(ブリックス)について触れておきます。

BRICs(Wikipedia)

BRICs(ブリックス)とは、経済発展が著しいブラジル (Brazil)、ロシア(Russia)、インド (India)、中国 (China) の頭文字を合わせた4ヶ国の総称。

日本の経済が停滞むしろ衰退している感のある中、現在絶好調の国々です。経済発展の裏には教育水準の向上があります。特にインドは数学など理系全般に力をいれておりIT分野で目覚しい発展を遂げています。

人件費が安く、技術力が高いとなると、国内企業は当然のように海外への開発委託を考えるようになります。いわゆるオフショア開発です。上流工程は日本で、下流工程は海外でとなるのです。

現在SIer(System Integrater)では、新人をいきなり上流工程の要員に充てるということを当たり前のように行っています。アニメ業界でいうところの、動画担当の経験をすっとばしていきなり原画担当に据えるような違和感を感じます。

下流は海外、上流の人員不足という現状にマッチした要員配置ではありますが、その結果下流工程の知識が不十分な上流工程担当が増えてしまい、それがIT要員の能力不足というデータに表れているのではないかと思われます。

そもそも、下流の十分な知識無しにオブジェクト指向設計DB設計が可能なのでしょうか?そして設計の知識が不十分な状態でまともなプロジェクトマネージャーが生まれるんでしょうか?設計知識が不十分なのに真っ当な見積もりができるとも思えません。

オフショア開発の流れは、自らの首をしめているように思えてなりません。

 

需給不一致の原因

IT人材不足の要因は「産業構造」「育成環境」「育成機会」(@IT)

ICT人材の現状は「50万人ほど不足している。特に、高度ICT人材の不足数は約35万人」だという。高度ICT人材は技術系(プロジェクトマネージャ、上級システム設計・開発など)とマネジメント系(CIO、CTO、システム企画など)に分かれるとし、特にマネジメント系の不足が著しいと平林氏は強調した。

総務省のお役人さんが言ってます、50万人足りんと・・・。

リンク先では産業構造、人材育成環境・機会の点から問題をまとめていますが、詳しくはリンク先を参照して頂きたく思いますが、私が気になったところを数点取り上げます。

まず「産業構造」でオフショア化の進展を上げています。これは下流工程の知識が上流工程を担当するSEにも必要であることは認識しているということでしょう。現実問題として下流工程でSE候補を育てる余裕が企業にないのであれば、次善の策としては専門学校や職業訓練校などの教育機関や企業研修により下流工程に触れる機会を作るしかありません。

そこで「育成機会」が重要となります。

特に教育機関の役割は重大です。今は新入社員に即戦力を期待するという無茶苦茶な時代ですから、専門学校等でITの基礎知識を徹底的に叩き込まねばなりません。「ICTリテラシーの習得」うんぬんとお役人さんは言っているわけですが、想定しているITリテラシーはどの程度のものなのでしょう?WordやExcelの使い方程度のことならば、そりゃ産業界とのミスマッチが起こるのは当然ですよ。

ちなみに私は大学で産業界のニーズにマッチする経験を修得させるのは無理だと思っています。ゼミナール単位で考えた場合は例外的に可能なところはあると思います。

私の考える「産業界のニーズにマッチする経験」とは、上流から下流までのマネージメントも含めた複数人での開発を経験することです。文法とかフレームワークの知識などは個人でも勉強できます。しかし、グループ開発は個人では経験できません。

この経験をなしに、真っ当な企業研修も用意されていないSIerにSEとして採用されたら、へたすると生涯、下流工程のことが分からないまま上流工程を担当し続けることになります。そんな状況でもSEとしての頭角をメキメキと現す人もいるかもしれません。しかし、「要員の能力不足」に関するデータを見る限り、それが多数派でないことだけは確かなようです。

 

ちなみに育成機会に関して以下の項目がありますが・・・。

研修事業者
・地方・中小事業者における講師の不足

IT技術者の能力がピンキリであるように、IT講師の能力もまたピンキリです。以前、「英語教師にTOEIC受けさせたら学生レベルの実力しか有してなかった」という読売かどこかの記事がネットですごく話題になりましたが、IT講師についても同じことが言えます。

私が目にした例だと、PHPが全く出来ないのにPHPの講師をしていて、結局無知であったことがバレてやめちゃった・・・ということがありました。そもそもドウシテ採用される?と疑問に思われるのはごもっともですが、この業界にはあるんですよ、そういうことが。

設計の経験が豊富とのことで採用されたSEが、実は全く設計書が書けないことが後になって分かったというケースと同じです。

以上のように、能力の高い講師が不足しているのでしょう。

 

ただしこれ以外にも考えられて、お役人さんは一体どれくらい「講師の数」を把握しているのか?という点です。つまり単純に数が足りないのではなく、把握できてないからマッチングができないという話なんじゃないの?と疑ってしまいます。

 

おわりに

講師という立場からは、現場で下流工程の経験が積めないならば、教育からどうアプローチするかを考えます。学校にしても研修にしても時間的制約は厳しく、質はともかく量の問題は如何ともしがたいものがありますが、今後も当ブログでは人材育成について考えていきます。